



さつまいもともち米、砂糖だけでつくる
花野果のかんころ餅は
焼くともっちりふわふわ
食べるとなんだか懐かしい
素朴な優しい味わいです。
かんころ餅は、ざ ぁまなご馳走やったとよ。



九州の西部、長崎県の五島列島は急峻な山々が連なり、平地はわずかで田んぼは少なく、人々はかつて、サツマイモを育てて命を繋いできました。育てやすく栄養価も高いサツマイモですが、寒さに弱く冬を越えずに腐るという欠点がありました。
五島では芋を保存するため、薄く切って茹で、北風にさらして乾燥させました。この干し芋が「カンコロ」です。
「かんころ餅」は、カンコロと餅米を蒸して、砂糖を加えてつきあげる、当時としてはとても贅沢な食べ物でした。
今でも五島の冬に欠かせない、素朴なおやつとして地元の方々に親しまれています。
五島はやさしや 土地までも



この島には、いくつものカトリック集落や教会が点在します。
江戸時代、キリスト教弾圧を逃れるために本土から逃れてきたカトリック信者たちが、山を切り開いて畑を耕し、痩せた土地でさつまいを育て、命と信仰を繋いできました。
芋を茹で干しにした「カンコロ」を家の床下に掘った穴で保管し、食べる分だけを水で戻して蒸し、米の代わりに主食として食べていたそうです。慎ましくもたくましい人たちがいたからこそ、この島のいまがあります。
今でも冬が始まる頃に、さつまいもを切ってゆがき、やぐらと呼ばれる網棚に干す、そんな光景があちこちで見られます。冷たい北風でカラカラに乾いたカンコロをもち米、砂糖と一緒につき合わせたものが、かんころ餅。素朴でやさしい味わいは、愛らしいその響きのとおりです。
島の食文化を受け継ぎ、未来へつなぐ。






かんころ餅は、この島の苦難の歴史と深い信仰を伝えるうえで欠かせないものが集約された、他にはない食文化だと思います。
かんころ餅だけでなく、この島に残る慣習やしきたりが、これからもずっと続いていってほしいと願っています。
そのために私たちができることは、五島の歴史を物語る食文化を残すことにほかなりません。かんころ餅を作り続けること、原料となるサツマイモ作りを続けること、そして地域の子どもたちにかんころ餅の美味しさとその歴史を伝えること。小さな積み重ねの先に、豊かな島の風景が続く未来があると信じて。